新おじさん教師のひとりごと

長年高校教師をした後、中国の大学で日本語を教え、3年間過ごして帰国しました。今は引退して年金生活です。個人的な意見を書いています。

「昭和陸軍の軌跡ー永田鉄山の構想と分岐」を読む。

 今日までどうも晴天のようです。明日から雨又は雪で週末はまた天気が回復するようです。今日は少し時間ができたので、書店へ行ってきました。沢山本が出版されていますが、著者は皆それぞれ勝手なことを言って(著者には申し訳ありませんが)何を信じたらよいのか全く分からない状態です。
 
 まあ、結局はなるようにしかならないのでしょう。1000兆円の財政問題についても、気にする必要はないと言う人もいれば、国債が暴落して大変だという人もいるし、消費税などやれば大変だという人もいれば、消費税をやらなければ財政が破たんするという人もいます。
 
 すでに書いたTPPについても、賛成反対入り乱れています。また相変わらず北朝鮮崩壊論や中国経済崩壊論もでています。いつか書きますが、ネットの世界も意見が百花繚乱状態です。
 
 さて、今日は1月くらいかかって読んだ「昭和陸軍の軌跡」(中公新書川田稔著 940円)について書きます。おじさんは雑食性なので、なんでも面白そうだと思ったら読むのです。小説・人文科学・社会科学なら何でもです。さすがに自然科学は駄目です。それと芸術スポーツ関係も読みません。
 
 ところで今回読んだ本は日本の戦争に至る道について随分勉強になりました。16歳(高校2年)の時日本史を学んで以来、初めて知った内容が多かったです。中国にいた時さんざん日中戦争に関するテレビドラマを見たので、中国側の日中戦争に対する考え方は良く知っています。
 
 しかし、日本側、特に中国大陸で戦った日本陸軍の考えについては知らなかったのでとても勉強になりました。そこでおじさんが意外だったことを中心に報告します。まずこのところ問題になっている先の戦争について書きます。この戦争については「大東亜戦争」「太平洋戦争」「第二次世界大戦」という呼称が普通です。最近では戦場が「アジア・太平洋地域」だったので「アジア・太平洋戦争」と呼ぶ動きもあるようです。
 
 この本を読んだ印象では「第二次世界大戦」が一番ふさわしいようです。当時の日本政府や陸軍は「大東亜戦争」と名付けました。理由はこの戦争は「大東亜」つまり「アジア全体」のヨーロッパの植民地からの解放を目指す正義の戦争だと主張したかったからです。
 
 この本を読むと、それは戦争の大義名分で、実際は日本がアメリカの経済支配(鉄の材料の鉄くずや原油アメリカに依存していたこと)からの脱出(経済的自給)のために、中国を中心に広くアジアに勢力を拡大したかったからのようです。(日本に必要な資源は中国・アジア地域から持ってくる。)
 
 もちろん、そのためには、現在植民地として支配している欧米(イギリス・フランス・オランダ・アメリカ)諸国を追い出さねばなりません。副次的に植民地の解放ということになるのです。もちろん完全な独立を認めるわけでなく、欧米の代わりに日本が指導(支配)することになるのです。(満州国のアジア版 それぞれの独立国の発展のためでなく、日本のために資源を利用する。)
 
 これらの陸軍の考えは日中戦争以前からあったようです。そのように考えたのは第一次世界大戦の教訓からです。総力戦(国力の全てを戦争のために使う)には、資源の自給が絶対に欠かせないということをエリート軍人たちは知ったのです。(その中心が永田鉄山
 
 まず中国に目をつけました。最初は東北部だけだったのですが、欲が出て中国全土を支配下に置きたかったようです。それが日中戦争に繋がったのです。これも意外だったのですが、陸軍が本当に戦ってでも排除したかったのは、アメリカではなくイギリスだったことです。日中戦争以前でも中国問題の壁になったのがイギリスだし、アジア全体においても同様です。
 
 またなぜ第二次世界大戦なのかというと、当時の陸軍首脳部は、ドイツがイギリスを降伏させると見通していたようです。ドイツの目覚ましい進撃を見て、イギリスはもうだめだろう、イギリスが降伏すれば日本がアジア全体に進出してもアメリカは黙認するだろうと考えていたようです。
 
 おじさんも、アメリカの工業力を知らずに無謀な戦争をしたものだと思ってのですが、当時の陸軍首脳もアメリカの巨大さは認識していました。ところが独ソ戦という思いがけない戦争が勃発してイギリス上陸作戦が中止になり、そこから日本の思惑はずれが生じてくるのです。
 
 独ソ戦についても、ドイツが勝利することが分かれば日本も参戦するつもりだったようですが、ご存じのような結果になりました。アメリカにとってもアジアで日本が勢力を拡大すれば、アジアの植民地だけでなく、オーストラリアとイギリス本国との通商も断たれることになります。
 
 つまり、アメリカにとっては絶対にイギリスを敗北させるわけにはいかなかったのです。アジア情勢はヨーロッパのドイツとの闘いとリンクしていました。日本陸軍でも最後までアメリカとの戦いを避けようとした軍人がいました。よほど歴史に興味がある人しか知らないと思いますが、武藤章軍務局長です。この人についておじさんはカチカチの軍人だと思っていました。
 
 意外にも彼は最後の最後まで対米戦争に反対していました。また東条英機首相も最初から対米開戦のみを考えてわけではないようです。日本が長期の戦争はできないことは知っていました。それと日米交渉の最大の問題点であった、中国からの撤兵についても、おじさんは最初から無理だと考えていたのですが、これもかなりの程度で撤兵の可能性を考えていたようです。
 
 しかし、ドイツの動きが止まり、ヨーロッパでもソ連でも戦線が膠着するなか、このままではイギリスが敗北する見込みもなく、アメリカの原油輸出が本格すれば日本は立ち枯れになってしまうということで戦争に踏み切ったようです。海軍は短期決戦を考えていたようですが、陸軍はアメリカが数回の敗北で簡単に引き下がるわけはなく、戦線を拡大せず、占領した地域だけを守って長期持久戦に持ち込もうと考えていたようです。
 
 それにしてもイギリスの敗北なしに、アメリカが戦争から手を引くはずはないと考えていたようです。ですから、アジアの情勢がどうであれ、イギリスが敗北しない限り、日本に有利な形で戦争が終結する見込みはなかったようです。
 
 そして、ヨーロッパではドイツの敗色が見えてき、太平洋ではミッドウェイで敗戦し、ガダルカナルを落とされた時点で、陸軍は少なくとも日本に有利な形での戦争終結はないと考えたようです。しかし、このまま戦争を終結すれば太平洋地域はもちろん、中国での完全撤兵ということになり、日本が又以前の貧しい国になると考え戦争を継続したようです。(当時の陸軍の軍人は世界の三流国と言っています。)
 
  1000円以下の薄い本でしたが、多くのことを考えさせられました。良かったらブログの読者の皆さんで、戦前の歴史に興味がある方は読まれたらよいと思います。明日ものんびり過ごします。