新おじさん教師のひとりごと

長年高校教師をした後、中国の大学で日本語を教え、3年間過ごして帰国しました。今は引退して年金生活です。個人的な意見を書いています。

中国大学院生の日本古典理解

 今日も晴天でした。昨日よりさらに気温が上昇し過ごしやすかったのですが、何と逆に風邪をひいてしまいました。急激な気温変化にやられたのだと思います。くしゃみ鼻水状態です。ペーパーをそばに置いておかないと大変な状態です。明日はもっと気温が上昇して15度くらいの最高気温になるようです。
 
 明日でいよいよ今学期の授業も終わりです。他の先生方も試験をしているようで、教員休憩室に答案を持って帰る先生方もちらほら見かけます。試験は授業時間と別に行うので、いつもあっている授業がなかったりします。日本と違って、中国では就職や大学院進学それに奨学金などに成績が重視されるので、皆空き教室にこもって勉強をしています。
 
 大学正門でも優秀な大学生の掲示がされていました。おもしろいのは詳しく履歴などが紹介されている点と顔写真入りなところです。日本では個人情報保護が進んで、大学正門に顔写真入りかつ実名で優秀学生を紹介したりはしないのですが。中国では病院では医者と看護婦さんの紹介が病院入り口でなされます。もちろん写真入りで、病院によっては出身大学まで書いてあります。
 
 スパーやホテルなどでは、今月の優秀社員の表彰があります。これも入り口などに名前と写真入りで出ています。先生方も優秀教員として写真と名前入りで掲示されています。このあたりは日本ではない感覚です。優秀者を表彰することで、他の人もそれに負けないように励むという習慣が中国にあるのだと思います。
 
 さて、今日は大学院生にした試験の最後の問題に「あなたが一番印象に残った作品について書きなさい」と出題した、その結果報告です。中国の大学院生がどのような作品に興味を持ったのか紹介します。今回の授業では、「宇治拾遺物語」「方丈記」「枕草子」「伊勢物語」「万葉集」「古今集」「新古今集」をやりました。もちろんその一部だけです。
 
 宇治拾遺物語は一種の笑い話をやったので(「児の空寝」)さすがにこれを取り上げた学生さんはいませんでした。枕草子伊勢物語が2人ずつ、後は方丈記新古今和歌集万葉集、悲恋歌がひとりずつです。意外に思ったのは、日本の独自の文学である和歌が印象に残ったという学生が3人もいたことです。特に新古今和歌集は、日本の高校生でも理解が難しいのに、中国の学生さんが印象に残ったとするのは驚きでした。
 
 枕草子では「香炉峰の雪」と「ありがたきもの」(めったにないもの)をやりました。それぞれひとりづつ好きだと書いていました。香炉峰の話しでは、雪について語り合った部分が印象的だったと書いています。自分も家族や友人と雪について語り合えたらいいと思ったと書いていました。もう一人の学生さんは、清少納言の頭の良さに感心したと書いていました。なかなかおもしろい意見だと思いました。
 
 伊勢物語では「たけくらべ」を取り上げました。やはり女の生き方が印象的だったと書いています。また平安時代の結婚制度や女性の生き方が勉強になったと書いていました。日本の高校生が苦手とする和歌の修辞法(序詞や掛詞、縁語など)がおもしろいと書いた学生さんもいました。
 
 方丈記では「養和の飢饉」についてやりましたが、危機における人間の生の姿が分かってよかったと書いていました。その学生さんは、この話を聞きながら中国で起こった大災害のことを思ったそうです。(四川大地震や西南部の干ばつなど)万葉集を取り上げた学生さんは「額田王天武天皇」の相聞歌が印象的だと書いています。私は歌の解釈では「袖振る」について詳しく言わなかったのですが、学生さんは自分で調べたようで「袖振る」と言うのは「相手の魂を抜きとる」という呪術的な意味があって、自分の愛を表現するのだと書いていました。
 
 日本の学生さんだと先生が説明した以上のことを自分で調べたりしないものですが、さすが中国の大学院生だと思いました。新古今和歌集が印象に残ったという学生さんがいたのも意外でした。日本では万葉集が大人気で新古今和歌集は技巧的で観念的と低く見られるのが普通なのです。ここでは三夕の歌(3人の歌人の秋の夕暮れの歌)を中心に式子内親王の歌などをやりました。
 
 良いものは時代を経過しても残るものだ思ったとその学生さんは書いていました。もう一人の学生さんは、特定の作品ではなく、悲恋歌が印象に残ったと書いていました。具体的には式子内親王の歌や防人の歌などです。かれの言葉を借りれば「日本古典文学の美と言えばやはり悲恋歌というイメージが強いとしみじみと肌で感じ取りました。」と言うのです。
 
 これが中国の大学院生の言葉とはとても思えません。事前にこのテーマで出題すると言っていないし、彼らも予想していなかったと思うのですが、日本人の大学生と同じか、それ以上日本の古典文学について理解しているような気がしてなりません。今年の学生さんはとても優秀です。日本の皆さんも自分が高校生だった時の古典の時間を思い出して、このような答えが書けるかどうか考えられてみてはいかがでしょうか。
 
 おじさんのブログではこのような中国で日本語を学ぶ学生さんの生の姿を報告しています。これらは日本のマスコミが報道しない生の中国の姿の一部なのです。明日は外国語学院のイベントがあるそうでそれに参加します。