新おじさん教師のひとりごと

長年高校教師をした後、中国の大学で日本語を教え、3年間過ごして帰国しました。今は引退して年金生活です。個人的な意見を書いています。

「ソロモンの偽証」(宮部みゆき著)を読んで

 久しぶりに大作を読みました。長女から貸してもらったものです。大作と言うのは文庫本で全6冊なのです。こんなに長い小説を読んだのは司馬遼太郎の「翔がごとく」以来です。

 最初は6冊も読めないだろうと思いました。ところが読み始めるとやめられません。ある時は続きが読みたくて読み終わったのが午前2時になったこともあります。

 内容は簡単に言えばある中学で起きた中学生の死をめぐって、裁判が行われるということです。この小説は学園小説であり法廷小説であり、サイコドラマ(心理劇)であり、推理小説でもあるのです。

 舞台はある公立中学です。最初はなぜ私立中学でも高校でもなく公立中学なのか疑問でしたが、ふと気づきました。私立中学や高校では生徒が選抜されているからです。

 公立中学の場合信じられないほど優秀な生徒も、どうしようもないワルも存在するのです。それに公立中学の教師は私立中学や高校と違って生徒を原則処罰できません。(高校では教育的処置をいいますが、謹慎停学退学の処分があります。)

 裁判が中心なので、判事も検察官も弁護人もいます。本物の裁判に相当似せています。判事以下検察官も弁護人も中学生ですが、それなりに権威があります。おもしろいのは検察官役の生徒に補助がつきます。補助の生徒は検察事務官とよばれています。

 法廷の秩序を守る廷吏もいるのです。かれは武道にすぐれていて、それでいて礼儀正しいのです。判事役の生徒にも検察官役の生徒にも弁護人役の生徒にもその職に敬意を払うのです。

 登場人物をして興味を持つというかおじさんにそっくりな登場人物がいました。そして小説の終わりに20年後の人物が描かれていましたがなるほどやっぱりと思いました。

 どこが似て居るかというと、まず体形です。彼は野田君と言います。夏がいやなのです。半袖のシャツだと腕の細さが他人に分かっていやなのです。おじさんもやせっぽちです。おまけにクラスでも目立たないところも中学時代のおじさんと同じです。

 また彼は弁護人の補佐になります。おじさんもリーダーになるよりリーダーの補佐が得意なのです。いわゆる参謀タイプです。

 野田君は中学を卒業して20年後には中学の国語の先生になっていました。おじさんは高校の国語の先生だったのです。そこも同じです。

 裁判用語も出てきます。これは中学生でも勉強すれば使えるのです。裁判が始まる前、判事が検察官と弁護人に了承を求める場面がありました。その時弁護人は「然るべく」と答えるのです。

 本当の裁判でもそう答えるのです。でてくる生徒さんのキャラも面白いです。現実に存在する生徒さんのようです。ところで中学生に裁判などできるはずがないと思われるかもしれませんがそうではないでしょう。

 中学では教えたことはありませんが、高1の生徒を担任したことがありました。彼らは今50代後半になっています。その生徒さんたちが自分たちだけで文化祭のクラス展示をやったのです。担任であるおじさんの手を借りるどころか排除されてしまいました。

 司会の生徒はサッカー部の子でしたが、おじさんが話し合いの途中で入室しようとしたら、先生は出て居てくださいと言われました。この小説の判事のように権威あるいい方だったのです。

 おじさんは学校に迷惑をかけないことと、クラス全員が参加することを条件にしました。そして、もっとも無口なおとなしい女の子にも役を振っておじさんの命令を守ったのです。

 クラステーマは何と「○○高校教師の私生活をあばく」(○○はおじさんの学校の名前)です。クラステーマの載ってしるパンフレットを見てびっくりしました。よくそんなテーマを生徒指導部(補導部)や学年主任が許したと思います。

 リーダーは最も無口でおとなしい生徒向きの仕事を作りました。あとで考えると思い当たることがありました。展示の中にどの先生が昼休み何回トイレに行くかを数えてそれを一覧表にし展示していました。

 クラスで一番おとなしいその生徒は、じっとトイレの前に友人と立って先生がトイレに行く回数を数えていたのです。職員トイレの前によくその生徒と友人がいたのでなぜだろうと思ったことがありました。

 とてもおとなしい子だったので全く気にしていませんでした。リーダーの子はこうして先生の言いつけを守ったのです。おじさんの家にインタビューに来たのは秀才の子でした。その子は後に東大の経済に進み大手銀行に就職しました。

 関西の高校時代の出来事です。ちなみに小説にでてくる乱暴な子には最初に勤務した工業高校で大勢会いました。自分の経験にぴったりあう小説だったのでとてもおもしろかったです。

 小説の終わりは書きませんが、一種のどんでん返しに近い物があります。ぜひ読者のみなさんも読んでみてください。
 
 明日は授業です。