新おじさん教師のひとりごと

長年高校教師をした後、中国の大学で日本語を教え、3年間過ごして帰国しました。今は引退して年金生活です。個人的な意見を書いています。

中国の先生から依頼された論文を添削するの巻

 きょうは久しぶりにのんびり過ごしました。ところで、先日依頼のあった中国の学生さんの論文について報告します。
 学部の学生さんでなく大学院生です。今回は量が多く何とA4で74枚もありました。題は「日本映画タイトル中国語訳の翻訳方略」です。
 こんな内容で修士論文が書けるのかと思ったのですが、論文を読んでみるとなるほどと思わされました。というのはもし日本の題名をそのまま中国語に置き換えると映画を見ようと思った人は混乱するからです。
 たとえば有名なアニメ「紅の豚」を中国語にすると「紅猪」となります。「猪」というのは中国語で豚のことです。この題名ではハンティングのことか、あるいは養豚業の人の話になってしまいます。
 やはり内容に即した訳が必要です。その場合どのような原理原則に則ってやればよいのかというのがこの論文の目的なのです。
 ちなみに「紅の豚」の良い中国語訳として「飛天紅猪侠」があげられています。よく日本語と中国語の漢字の意味は違うと言われますが、中国で生活してみてそうではないと分かりました。
 他のどの外国語に比べても中国語が日本人には一番分かりやすい言語です。先に挙げた中国語表記はもちちろん簡略体で書かれています。意訳すれば「空を飛ぶ義侠心を持った紅の豚」ということになります。
 「侠」には日本語同様の意味が中国語にもあります。「座頭市」もそのまま「座頭市」と使うこともできます。しかし、「座頭」の意味を中国人は理解できません。そこで「盲侠座頭市」とすれば、目が見えない侠客となります。このように簡略体にさえ慣れれば、結構中国語を読むことができるのです。もちろん、発音は日本語の漢字音とは全く違います。
 中国の政治を思わせる部分もありました。香港台湾については、中国香港・中国台湾」と書かれていました。おもしろいことに、後の方では単に香港・台湾と書いていますので、ふと忘れるほとのことなのでしょう。
 また、高倉健主演の「君よ憤怒の河を渡れ」が中国で大人気だったと書かれていました。その理由として、この映画は無実の検事が追われる内容で、文化大革命の時無実の罪で迫害された経験と重ることが挙げられるとしていました。
 中国において文化大革命はある種の郷愁と反発が入り混じっています。ガラクタ市では毛沢東バッツや毛沢東語録が売られ、毛沢東の演説のビデオが流れていました。
 同時にこの論文のような記述もあるのです。おじさんのいた大学は国立大学ですし、指導教官ももちろん共産党員です。依頼してきた先生のご主人は市の共産党幹部です。
 そのような状況の中での文化大革命関する記述だったので、とてもおもしろかったです。以下おもしろいと思ったものを上げます。「風立ちぬ」は「風雪黄昏」と「起風了」とあります。後者は直訳です。前者の方がいいとしていました。
 「余命一ヶ月の花嫁」は「生命最后一ヶ月的新娘」です。これも何となく日本人にも分かりますね。「ハチ公物語」は「忠犬八公物語」です。「となりのトトロ」は「竜猫」です。これはちょっと?です。
 「男はつらいよ」は「男人好辛苦」と「寅次郎的故事」とあります。前者も何となく意味が分かると思います。中国語で「ご苦労さん」は「辛苦了」(シンクーラー)です。
 著者は「寅次郎的故事」の方が良いとします。「故事」は出来事くらいの意味です。「リング」は「七夜怪談」と「午夜凶鈴」とあります。
 「七夜」は1週間の意味です。著者は「午夜凶鈴」の方が良いとします。意訳としては「もう一度抱きしめたい」です。「人鬼情未了」です。「鬼」は魂とか霊魂の意味です。
 「情未了」は文字通り気持ちあるいは思いに未練がある、まだ終わっていないです。亡くなった奥さんが幽霊となって現れる話なのだそうです
 「おもいでぽろぽろ」のような例では「回憶点々滴々」です。思い出は「回憶」だとすぐ気付くと思います。ぽろぽろを「点々滴々」で涙が流れるイメージを出しているのです。これには「歳月童話」とか「児時的点々滴々」とかあります。
 何だか漢字クイズみたいでした。今日は中国語表記の一端を紹介できたと思います。こんな状態だから中国で中国語を全く知らなくても3年間生活できたのです。
 明日はポスティングの準備です。