新おじさん教師のひとりごと

長年高校教師をした後、中国の大学で日本語を教え、3年間過ごして帰国しました。今は引退して年金生活です。個人的な意見を書いています。

改ざん事件ー罪と罰

 今日も薄曇りで中途半端な天気です。おまけにツマクマの風邪も完治せず、いよいよ国慶節の休暇も半ば過ぎたのですが、旅行の計画は全く立ちません。多分このままぐずぐず過ごすことになりそうです。
 
 日本国内は相変わらずああでもないこうでもないと様々な問題に甲論乙駁で前に進まないようですね。漁船問題では、民主党からは色々意見がでるし、小沢さんは起訴に決まるし、補正予算の国会通過もどうなることやらというところです。
 
 おまけに株価も低迷気味で、日本経済の停滞ははっきりしています。以前から書いているように、人口のボーナス(若者が多く高齢者が少ない時代)も終わり、内需が期待できない中、円高で輸出もままならず、おまけに大口の需要家である中国とは不透明となれば、景気が良くなる可能性もなさそうです。
 
 安い外国製品の輸入がデフレを引き起こしていると言われますが、こちらの旺盛な内需(大勢の人が物を買っている様子)を見ると、やはり内需の不足が大きいと思います。日本では平日の昼間のスーパーは閑散としていますが、こちらは平日のスーパーでも日本の日曜日のスーパー並みの混みようです。日曜日となれば、全てのレジに行列ができ、カートを押してすれ違うのも困難なほどです。日本のスーパー業界の人が見れば羨ましくなるような風景です。
 
 さて、今日は今話題の改ざん事件の罪と罰についてです。これでもおじさんは国語国文学の他に法律学のいくつかを専門的に学びました。特に専門的に勉強したのは行政法です。その他教育法や教育行政学も大学院で勉強しました。(修士論文は教育行政学の分野で書きました。)
 
 まず主任検事の人の場合、罪は刑法104条の証拠変造罪に該当します。罰は次のようになります。他人の刑事事件に関する証拠を変造した者は二年以下の懲役または20万円以下の罰金です。主任検事の人の場合、職務上の権限を利用し、かつ違法性を十分認識しながら、判決に重大な影響を及ぼす証拠の変造をおこなったので、裁判になれば悪質とみなされます。ただ犯行を認め、検察庁を懲戒免職になり、弁護士になる資格も奪われることになると、社会的な制裁を受けているということで、1年半くらいの実刑ということになるでしょう。
 
 一方上司の副部長の人や部長の人の場合はどうでしょうか。この二人は刑法103条の犯人隠避罪に該当します。罰金刑以上の刑にあたる罪を犯した者を隠避させると二年以下の懲役又は20万円以下の罰金です。読者の皆さんの中には、主任検事はまだ犯罪者と確定していないのにと思われるかもしれません。この場合犯人とは真犯人及び犯罪の嫌疑を受けて捜査中又は訴追中の者とするのが、法律上有力説のようです。
 
 ですから、主任検事の人が無罪になれば、当然副部長や部長の人も無罪となります。主任検事の人が有罪となっても、この二人が隠避する意志があったことを証明しなければなりません。本人たちが否認すれば、物証や他の人の証言をもとに、裁判所が判断します。
 
 裁判所が本人たちの否認の主張を(現在まだ罪を認めていないようですが)重視するか、他の検事の証言や修正された上申書などを信用するかの問題です。これは裁判官の自由心証(自分の判断)によるので難しいです。もし、有罪となれば犯行の重大性はもちろん、本人たちに反省が見られないとして、最高刑の懲役2年が下ることは間違いないでしょう。日本の裁判の場合反省が重視されるので、無罪主張で有罪となるとかなり重い判決になると思います。
 
 ところで、皆さんの中に犯人隠避(隠したり逃がしたりすること)と言っても、自分の子供や親などの場合どうなるのかということを思っている方もあるでしょう。もちろん、日本の刑法といえども人情に反することを求めたりしません。逃げてきた親を子供が警察に通報するなど人情に反することです。証拠変造と犯人隠避のいずれについても、親族の場合は刑を免除する規定があります。
 
 つまり、子供や親の犯した犯罪については証拠を変造したり、逃がしたりかくまったりしても罪には問われないということです。それから意外な判例があるので紹介します。江戸時代やヨーロッパなどでは、お寺や修道院に逃げ込んだ犯人を捕まえられないという話しがあります。
 
 日本でも随分前ですが有名な判例(裁判の判決例)があるのです。おじさんも以前から知っていたのですが、それを紹介します。昭和50年2月20日の神戸簡易裁判所判例で、犯人隠避罪に関する判例としてとても有名です。それはある罪を犯した少年を教会の牧師さんがかくまって、この罪に問われたのです。もちろん求刑も罰金程度だったのですが、何と裁判所は無罪を言い渡しました。
 
 その理由は牧師さんが犯罪を犯した少年をかくまい説得して罪を認めさせ、警察に自首させたことは教会の牧会(信徒さんを教え導くこと)上正当な職務ととみなし、職務上正当な行為であるので、違法性阻却事由(違法なことをした罪を帳消しにする正当な理由があること)の原則を用いて無罪としました。ちなみに「いほうせいそきゃくじゆう」と読みます。
 
 違法性阻却事由とは、本来違法になる行為だが、正当な理由がある場合、その違法性が取り消しになるということです。例えば、お医者さんが患者さんをきちんと手術したのに患者さんが死んでも殺人罪にならないし、心臓停止の人に周りの人が心臓マッサージをして、本人は生き返ったが肋骨が折れた場合、傷害罪にならないのと同じです。(もしそれで傷害罪に問われたら心臓マッサージをする一般の人はいなくなるでしょう。)
 
 違法性阻却事由とは、そうしないと誰も罰を受けるのを恐れて正当な行為であるのにやらなくなるからです。違法性阻却事由についてはおもしろ判例もありますが、これでやめます。(水俣病患者とチッソという会社の例です。この判例もとても印象的でかつ感動しました。)
 
 あすはツマクマが元気になったら買い物に行きます。